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チョコレートは2月13日まで受け付けるノーブル佐々木です。


修箸いΔ海箸如



■迷信

熱が下がり、その後の朝食を何とか完食すると、ナース・ステーションではシフトチェンジの際の申し送りをしているようだった。
これまでも、ほとんどと言っていいくらい来る看護婦さんが違うので、どんだけいるんだ、と思っていたが、まだ当分はこんな状態が続くのだろう。
しかも皆若く、この時点で30歳以上と思われる看護婦に遭遇していない。


「『看護婦祭』してるけど、どう?」


急に高校生の時、友達と大通り裏を歩いていて、呼び込みに声をかけられたのを思い出した。
どう見ても未成年の二人をからかったとしか思えないが、ひとしきり盛り上がった。


「え〜、看護婦祭だってよ。どんなんかな。」


「保険証もってけば3割引だったりしてぇ。」


「ぎゃははは〜!」


再現ビデオにするとこんな感じだ。
どうしてこうも男と言うものは、制服にあらぬ妄想を抱いてしまうのだろう。
そこに最近はメガネがアイテムとして加わることが多いが、それらには共通するイメージがあるように思う。
それは「知性」と「自制心」なのではないだろうか。
そして、そこに封じ込められた性衝動を妄想し燃え上がるのである。

何をまじめに語っているのだろう。
シシャモでも食いすぎたせいかもしれない。
しかし、人それぞれに言わずにはおられない、そんな瞬間と言うものがある。
例えば、この「おたふく風邪」シリーズもそんな一つなのである。
これを読む読者が「どこにそんなメッセージが?」と思うかもしれない。
では、こんな話を聞いたことはないだろうか。


おたふくにかかると子種がなくなる。


特に中年以降の方には、この話を信じている方が少なくないように思う。
しかし、これは間違った認識による迷信である。
もし本当なら、今頃人類は滅亡していたかもしれない。
しかし、新型インフルエンザの速報が番組途中に字幕で流れても、おたふく風邪速報が一度として流れたことがないように、決してそんなことはない。

副睾丸炎を併発しない限り100%そんなことはないのだ。
未確認だが、副睾丸炎になる確率は20%ぐらいらしいが、仮にそうなったとしても子種がなくなるかどうかは、傷跡が残るか残らないかの違いのようなもので、必ずそうなるわけではない。
オラホは、今回の病気を通して天命を与えられたと思っているが、それがこの迷信の払拭である。


「おたふく風邪で子種がなくなる」は迷信だ!

おたふく患者に愛の手を!

おたふく患者に人権を!


ふむ、なかなか決まったような気がするぜ。
ではオラホの子種はどうなんだろうか?
オラホのキャンタマ袋は、種無ブドウと化してしまったのだろうか。
実はあれから21年経った今でもそれは謎のままでなのである。
いや未確認といった方が適切だろうか。
だって仕方ないじゃないか、3人で子供は打ち止めにしちゃったんだから。

手の上でピチピチ跳ね回っているのならすぐに分ると言うものだが、検査しないと分らない。
それもオシッコ紙コップに入れるほど気楽に出来るものでもないだろう。
検査を想像しただけで、座薬を挿される以上の試練が待っていることは、十分予想できる。

いずれにしても、現状で困ることは何もないのだからいいじゃないか、と結婚もして3人の子宝に恵まれているオラホの立場なら気軽に言える。
しかし、未婚者であれば重大事項だろう。
もっとも、最近はワクチンがしっかりあり、無料の予防接種もあるので今の若い世代には無縁のことなのかもしれない。
結局のところ、オラホの使命感も現代においては、たいした社会貢献はできそうもないのである。



■点滴

「ちょっと、待てよぉ!」


キムタクならそう言ったに違いない。
朝食も過ぎて看護婦さんが持ってきた点滴が前回とは違うのだ。
100ccほどの抗生剤はいいだろう、前回と同じだ。
しかし、もう一本「500cc」と表示されているその点滴は何なんだ。
持ってきた彼女の説明によると、昨日食事を残したのでそれを補うために追加されたのだと言う。


「聞いてないよ〜!」


今度は出川の出番だ。
ただし、いずれも声には出ていない。(こればっか)
まさか、おかずを一品を残しただけでこんなペナルティーを受けるとは思ってもみなかった。
しかも500佞任△襦
比重は水以上だろうから、抗生剤と足すと600g超ということになる。
つまり、体重がそれだけ増えるということだ。
どうせオシッコでほとんど出るとは思うが、何か釈然としない。

銀行に行って「預け入れ」と「支払い」2つを一緒に頼んだ時、「支払い」が先で預金高がマイナス、「預け入れ」が後でプラス、と記帳された気分だ。
肥満のオラホが敏感になるところである。
今だから告白するが、オラホはこの入院を肥満治療の一環ととらえていた部分があった。
まあいい、次からはもっとうまくやるさ。


「残しても戻さなければいいんだろ、な。」


と心はだんだん荒んでいくオラホだった。
それでも、点滴が始まるとあまりの退屈に業を煮やし、やってしまったことがある。
点滴のスピードを速めたのだ。
そうだ、看護婦さんが点滴スピードを調整したあの調節装置をいじったのである。

通常三,四秒で1滴落ちるのを一秒間くらいにまで速めた。
そのうち面白くて、つ〜と一直線になるまでいじったが、さすがに心臓に負担だろうと思いやめた。
どれくらいの時間で終わったのか覚えていないが、たぶん3分の1くらいの時間で終わったのだと思う。

よい子は真似しないように。



■嫁

高熱は、三日三晩つづいた。
しかしこの間、これ以上高熱と平熱の狭間で揺れるオラホに、大した事件は存在しない。
ガラガラと点滴引いてトイレに大便しに行ったこととか、隣とを隔てているカーテンを無言で開けたら、老婦人が携帯トイレで大便していたこととか、膨らませればネタにできないこともないが、排泄ネタはあまり好きでないし(どこが?)、人の尊厳にもかかわることなのでここでは取り上げないこととする。

それでも一つ上げるとすれば、やはり嫁のことだろう。
当時新婚5年目を迎えたオラホの嫁は、連日の仕事と家事で疲れていたにも関わらず、健気にも毎日見舞いに来て洗濯物やら暇つぶしの本やら持って来てくれていた。
普段からあまり感謝の言葉をかけない不遜な夫であるオラホも、頭が垂れる思いだった。
どうせこのブログなんか読まないだろうからこの際言っちゃおう。


「仕事も家も大変だったろう。その上オラホの面倒まで見てくれて本当にありがとう。」


さて、高感度アップしたところで本題である。
そんな彼女に下着を持って来てもらった時のことだ。
丁度補充する頃でもあったしくたびれた下着では肩身も狭かろうと思ったのだろう。
気を利かせて何枚か買って来たのだった。

この時彼女がどういうコンセプトで選んできたのかというと、想像だが「看護婦さんにウケる奴」だったのではないだろうか。
開けてみておどろいた。


ヒョウ柄のビキニパンツだった。


大阪のおばはんかい!と突っ込みたくなる衝動に駆られた。
たしかにこの時まで彼女がオラホの下着を買ったことはない。
すべてオラホによるセルフチョイスだった。
当時だとまだブリーフが主流で柄パンといったあたりが出初めていたかもしれない。
もちろんビキニパンツという流れもあったがオラホが何で入院したのかを思い出してほしい。


「副睾丸炎」である。


お下品に言うと


「キャンタマ炎」である。


腫れてるのである。
痛いのである。
あまり言及してこなかったが、その痛みは鈍痛とはいえ身体を「く」の字にしていないと耐えられないのである。
女性にこの痛みを説明するは難しいが、男性には簡単だ。
次のようにすれば体感できる。

1.最初に傍らに人がいるなら後ろから股間を軽く蹴り上げてもらおう。  一人なら椅子の肘かけ、あるいはベットの柵に勢いよく股間で座るとよい。

2.しばらく激痛が走るのでじっと堪えてしばらく待とう。

3.徐々に激痛が和らいで鈍痛に変わる。


これがジャスト・オラホの痛みである。
違いと言えば、それがず〜といつまでも続くということだけ。
そんな痛みのあるキャンタマを固く締めつけるビキニは無理なのである。
痛みを増幅するだけである。
たとえヒョウ柄でも中身は狸の置物なのである。
しかもこれに氷嚢を入れたら、オラホのキャンタマの行きどころはどうなる。
はみ出してしまうしかないではないか。

しかし、し・か・し である。
確かにウケるかもしれない。


「どっちが本物だ〜?」


なんて看護婦さんとヒョウ柄パンツの中身当てクイズをして戯れるシーンを妄想してみる。
ふむ、いいかも…。
いや、結構いいかも。
お〜どんどん「い〜かも」って思えてきたぞ。

よ〜し、嫁、ナ〜イス、ジョブ!
これで行ってみよう!
闘病生活エンジョイするぜぇ!
と思ったかどうかよく覚えていないが、取りあえずこれで行ってみることにした。

しかし、ヒョウ柄パンツに言及する看護婦さんが現れることは遂になかったのである。








不正献金受付中のノーブル佐々木です。


爾泙任ちゃった。



■良心回路復活

いつの間にか寝てしまったようだ。
目覚めるとそこは病室。
そうだ、入院していたんだ。
窓から外を見ると空が明るくなってきている。
ここが何階かはよく覚えていないが、10階よりは上。

空以外で見えたのは県庁だ。
薄闇の残る空に濃い紫色のシルエットを浮かべいた。
その向こうあるはずの盛岡城跡公園は影になって見ることは出来ない。
住みなれた街でこういうアングルで見るのは初めてだった。

夏でもこの時間帯の盛岡は決して暑くない。
よく言えば爽やかだが、昼間の格好では薄ら寒い。
それでも子供のころは、夏休みの早朝ラジオ体操に半袖・半ズボンでよく行ったものだった。
傍目から見ると子供たちは、元気はつらつとしているように見えたかもしれないが、動いていないと寒いので全力でラジオ体操してただけだった。
あれから何年経ったろう。

ぼんやりとそんな窓からの風景を眺めていたオラホだが、身体に発熱の予兆をしっかり感じていた。
熱が上がってきている。
お、気が付くと病室が静かになっている。
ご婦人は吐き気が止まり、男性は寝てしまったようだ。


「ア、デンキ・・・。」


む、まだ起きてたか・・・。
一晩中しゃべり続けるとは並外れた体力だ。
病人にしておくのはもったいない。
電極つけて発電機代わりにでもなるんだったら本望だろうに。
まあいい、オラホも良心回路が復活して平常心を取り戻している。
これからまた熱が上がっていくだろうが、夕べのようなことはない。
だからみんなの事は愛してるぜ、安心しな。



■こだわりの看護婦



「で〜、震えが止まらない〜」


“喉元通れば熱さ忘れる”と言うが、なんと的確なことわざであろうか。
通算3度目の発熱で良心回路はすでにフリ−ズしている。
もうこうなると麻薬中毒患者同然で、解熱剤欲しさに体温計こすったり、もっと温かそうな所にはさんだりと、禁じ手の体温偽装方を使い一刻も早く規定の数値をクリアーさせようと努力していた。
そしてなんとか8度6分に達しナースコールすると、程なくして解熱剤をもった看護婦さんが現れた。
前回とはまた違う看護婦さんだ。
例によって「自分で入れますか?」と聞かれると思ったが、その時は違った。


「ハイ、では座薬、挿しますね〜。」


は?挿す?震えていた体が一瞬止まった。


「え?いや、いいですよ、自分で入れますから。」


オラホは出来る限りやんわりとお断りした。
彼女も見た感じ20代後半といった所で、当時のオラホとはほぼ同年代。
嫁と交わした契りをここで破るわけにはいかない。
熱のせいか相変わらず妄想が混入してしまうが、ここは譲れないところだ。
しかし、今回の看護婦さんはどこか違う。


「いえ、私が入れます。」


キッパリと断言した彼女には、迷いがなく何人も犯すことの出来ない崇高な使命感があるようだった。
何で座薬にそんな使命感・・・。
当然オラホも簡単に折れるわけにはいかない。
30歳目前で座薬の一本も自分でさせないで、なんで一人前の男と言えよう。
これまで培ってきたオラホの人生の全てをかけても、この座薬は己で挿す!

そうして彼女と「挿す」「自分でやります」と座薬を巡る攻防は始まった。
同室患者の雑音も沈静化し安寧の中、オラホは静かに座薬を挿したいだけなのに、ただそれだけなのに、この後いくつ試練を乗り越えれば退院できるのだろうか。
そう思うと熱が出そうな気分になったが、すでにMAXに達している。

結局、彼女の言うことを聞かない限り、手にした座薬をもらえないわけで、この勝負の結末は見えている。
今のオラホは、あの座薬を手に入れるためならならコンビニ強盗すらしかねない危険な精神状態だ。
なるほど薬中が犯罪に走る心理とはこう言ったものか。
記事を読むだけでは分らない、実際に体験したものだから理解できるそういったものは確かにある。
しかし、今はそんなジャーナリズムやら人間心理にかまってる場合ではないぞ。
決断すんだオラホ!


「じゃあ、はい・・・、お願します。」


看護婦が勝ち誇ったように見えたのは、オラホの気のせいだったかもしれない。
しかし、彼女はそんな勝利の余韻に浸るまもなく、挿入体制に入っていた。
そして気を使ってか毛布をめくらず、片方の手で端を持ち上げると手をすべりこませた。


「あ、もう座薬ささってますね。」


「い、いえ、それは前です。」


そんなコントを妄想していたオラホ。
あれ?よろこんる?オラホ?
生まれて初めて他人に座薬を入れられるのだ。
これくらい妄想してもいいはずだ。
彼女は、手でオラホの肛門を確認して標的が決まると標準をロックした。


「ロックされた!くるぞ〜。」


気分は戦闘機のパイロットだ。
次の瞬間、少しひやりとする座薬は細い指に押され、ずぽっ!と体内に進入した。
そして彼女はそこで気を緩めず、グイ〜ッと座薬のおしりが見なくなる奥まで押し込むことを忘れなかった。


「お見事!」


と、扇子があったら広げているところだ。
なんか感動すら覚える。
そんなオラホを置いて、仕事を終えた彼女はさっさと持ち場に帰って行った。
29年の生涯ではじめて他人に、しかも異性に座薬を挿入させられたオラホは、しばし放心状態だったが、すぐに気を取り直しこの件に関して分析を試みた。

たしかに世の中至る所にプロフェッショナルがいるものだが、入院中オラホの出会った看護婦で座薬の挿入を志願したものは彼女以外にはいない。
彼女は特殊任務を託された看護婦「特命看護婦」だったのだろうか?
まさかそんなことはないだろう。
たかがおたふく風邪の入院患者相手に、上から特命が下るわけがない。
ということは、彼女の独自判断によるミッションだったのだろうか?
だとすれば彼女の使命感を発芽させたものとは、一体なんだったのだろうか?
え〜い、わかんねぇや。
取りあえずオラホのキュートなお尻ってことにしよう。



ちゃんちゃん♪




長すぎるつぶやき、ノーブル佐々木です。

では、おたふく風邪擦箸いΔ海箸如



■再び発熱

尿瓶騒動が終わると、オラホは失意のうちに眠りに付いた。
何もやることはないのだから眠るしかない。
5時過ぎぐらいだろうか。
廊下から慌ただしく夕食を準備する音が聞こえてきて目が覚めた。

しかし、夏ともなるとまだ外は相当明るい。
どうも昼を食べた記憶があいまいなのだが、朝昼と連チャンで食べてないわけはないので、なにか食べたはずだと思う。
そのせいか、目の前にならんだ食事に気持ちが踊らない。

それに、今はどうかわからないが、病院の食事がなんとも無味乾燥なもので、メタボ治療のため入院したのではないかと錯覚するほど脂っけが抜かれていた。
そんなわけで、鳥のささ身を残してしまった。

食事の後、ぼんやりまどろんでいたが、7時を過ぎると、店を終えた嫁が見舞いに来て下着の着替えなどを届けに来てくれた。
店のこととか家のこととか話をしたが、家には5歳以下が3人待ってるので、そんなに長居はできないので30分ほどで帰った。
帰り際に、暇つぶしに本の類を持って来てほしい、と頼む。

あ〜、なんかホームドラマのようだ。
背中さすってもらって


「いつもすまないねぇ。」


なんて、言ってみてぇ〜。
ついでに


「何言ってんだよ。おまいさん。」


とか言ってもらったりして。
今度来たら頼んでみようかなン♪
違う意味でビョーキなオラホだった。

ところが9時になって消灯となったあたりから、オラホの身体に異変が起きた。
熱っぽくて悪寒がするのは、仕方ないとしても、えらい勢いで身体がガタガタ震える。
まるで全力で貧乏ゆすりしてるようだ。
こ、これがおたふくかぜの実力か…。
アムロが初めてシャーと空中戦を戦った気分だ。

お〜、そうだ体温測ろう、体温。
8度6分を超えてれば解熱剤をもらえるぞ。
しかし、ゴソゴソしながら測った体温は期待に反して8度2分。
ようし、いいだろう、これでもオラホは、あの「みちのくプロレス」のグレート・サスケを後輩に持つ美容師だ。
勝負しようじゃないか、このおたふくめ!
自分に「おたふく」と言っているのが少し切ない。

こうしてオラホとおたふくのいつ果てるともしれない熾烈な戦いが始まった。
ガタガタ震えては体温計をゴソゴソ。
そしてまたガタガタ震えてはゴソゴソ。
5分おきにガタガタとゴソゴソを繰り返し続け、30分位もしてようやく目標(?)の8度6分になるに及び、オラホは枕元のナースコールを目にもとまらぬ速さで押した。


「はい!青の方」


と、児玉清が言った。


「どうしました〜。」


いや、看護婦さんだったか。



「熱が8度6分を超えました。」


「は〜い、今行きますね〜。」



若干緊張感のない応対にイラッとしかもしれない。
しかし、さすがに医大のナースの対応は早い。
弾丸状の座薬を持って看護婦さん参上。
天使の輪が見えた気がした。

薄暗い病室で座薬を指先で上向きに持ち、ベット脇に立った彼女は、どこか「Fuck You!」してるようにも見えたが、天使の方で良しとしよう。



「どうします?自分で入れますか?」



彼女の物言いに迷いはない。
どうしてこうも皆、煽情的に追い込んでくるのか。
「惚れてまうやろぉ〜」と今なら言えるかも知れないが、この時まだこのギャグは誕生していない。


「自分で入れます!」


迷いを断ち切り、きっぱりと申し出を断るオラホ。
そんな葛藤を知る由もない彼女が、それを手渡し病室を出て行くのを見届けると、オラホは自らの肛門にあてがい、一気に挿入した。
異物感を感じたのもつかのま、座薬がオラホの体内で溶けていくような、そんな感覚に安堵のため息がもれる。

いちいち説明する自分が少しキモイ。
しかしこの座薬、効きがいい。
気のせいかもしれないが、入れた途端に体温がどんどん下がっていくような気がする。
エイトマンのタバコってこんな感じかも。



■氷嚢とお友達になる

30分と待つことなく、体の震えはおさまっていた。
解熱剤一本で数百年の医学の進歩を甲斐間見たようだった。
しかしその一方で、オラホのキャン玉袋にあてがわれている氷嚢は、治療としてはかなり原始的なのではないだろうか。
しかもルックスがかなりイケてない。

せめてそそり立っているのなら、どこへ行ったとしても、恥ずかしくもどこか誇らしげに振る舞えるのだが。
いかにイメージしても居酒屋か骨董品屋の玄関先以外で、このルックスを活かせる場が思い浮かばない。
せめて、パンツタイプとかオムツタイプでもいいから、誰か開発してくれてもよさそうなものだ。

それに結露するのも困ったものだ。
だいたい体表面で湿度が高い場所としては1,2を争う場である。
目覚めたとき20年ぶりで漏らしたかと思ってしまった。

ノッテきたついでに言うと、交換する時も冷や汗ものだ。
氷が解けて交換するとき、


「はい!おかわり!」


てな感じで差し出した氷嚢に陰毛が付いていた時は、全身の立毛筋が収縮したぞ。(鳥肌が立った、ってこと)
しかも中身が生ぬるくなった氷嚢からは、心なしか湯気が出てたような気もしたし…。
いや、愚痴るのはよそう。
これしきの事で文句を言う資格はオラホにはない。

トイレに出たときのことだ。
病室の前を通り過ぎて行くうちに、入り口の名前の横に赤いシールが貼ってあることに気がついた。
よく見ると稀に黄色いシールもある。
そして自分の名前の横にだけ、なにも貼っていなかった時オラホは確信した。
この病棟にいる患者のほとんどは、自分を除き重病患者ばかりであることを。

こんなことで弱音を吐いていちゃ天国の親父にお尻ペンペンされてしまう。
そうだ、氷嚢とお友達になろうじゃないか。
思えば文句も言わずオラホのキャン玉袋をキャッチャーミットのように優しく抱き、冷やし、しかも股間から支えてくれる良い奴だぜ。
おおお〜、まるで伴宙太のように見えてきたぞ。

意外なところで人は生涯の友に出会うものである。





■キカイダーに変身

熱が冷め、股間以外はまるで健康そのものになった気分で、夜の帳を堪能する。
そんな気でいたのだが…。
眠れない、ああ眠れない、眠れない。

そうだ、羊だ、羊を数えよう。
こんなところで、長らく心の裏庭にある鉄柵に閉じ込めていた羊を野に放つことになることとは思わなかったが、まあいいこれも話のタネになる。
さて、大人のオラホが何匹数えられるか、ギネスに挑戦だ。


「羊が1匹〜、羊が2匹〜、羊が…おいおいお前はカピバラだろう〜。」


軽いノリ突っ込みで滑り出しは上々だったが、普段から宵っ張りのオラホ、昼間から随分と寝ていたせいもありさっぱり効き目がない。
しかも、昼間から引き続き隣の老婦人が


「オロロロロロ〜」


と、ひっきりなしに嘔吐している声が聞こえてくる。
更に、昼間は熟睡してピクリともしていなかったお向かいの男性が、天井の蛍光灯を見て


「ア、デンキ。ア、デンキ。」


と、英単語の発音練習をしているように追い打ちをかける。
「オロロ〜」「ア、デンキ」の大合唱だ。


「こ、これはギルの笛の音だ〜。」


オラホは、キカイダーのようにベットの上で身もだえていた。
TVでは、爆音か何かで笛の音がかき消され、キカイダーは我に帰るのだが、そんな爆発をこの病室に期待することは到底できない。
あ〜誰か止めてくれ!30分、いや10分でもいい。
止めてくれたらオラホは熟睡して見せる。
一気にノンレム睡眠まで急降下だ。
しかも一度熟睡したら、目覚まし3個でも目覚めない確たる自信も実績もある。
しかし、笛の音は止まなかった。


「オロロ〜」

「ア、デンキ。」

「オロロ〜」

「ア、デンキ。」

「オロロ〜」

「ア、デンキ。」




そして、何かがオラホの頭の中で


「シュウウウ〜」



と焼け焦げる音がした。



「赤シールでもなんでもいい!

てめ〜らなんか

で〜きれいだ!」




こうして、生涯三度目の聞こえない江戸弁は陽の目を見ることはないままオラホの良心回路は焼き切れた。














モホロビチッチの不連続面でひと騒ぎしたことのあるノーブル佐々木です


連続だと、そうそう長くは打ち込めないものだ。
ということで此



■入院初日2

ここで、同室の面々を紹介しておこう。
と、言っても名前も覚えていないし、病名に至っては泌尿器系の病気という以外、元から知らない。
それに、泌尿器愛好会に入会したのならいざ知らず、1週間の入院で親交を深められるほど趣味嗜好に共通点も見えないし、ましてや健康でもない。
見てわかる以上のことは分からない。

お、泌尿器愛好会って、なんか面白い…。
おっと、話がそれるところだった。
ただでさえ話が前に進みにくいのにいかんいかん。

ということで、即紹介、と行く前に訂正がある。
病室には、ベットが4つあったと記述したが、よく考えてみると3つだったようだ。
同室した人数はたしかに三人いたのだが、オラホが入室直後、他の病室とメンバー交代がなされていて、ベット数と錯覚したみたいだ。
交代した理由は、オラホの疾病が原因だと思われる。
特に、謝るようなことではないが、お詫びし訂正しておこう。


「反省してま〜す。」


さて、身も心も清めたところで今度こそ本題に戻そう。
まず、交代してしまった人は一時間もいなかったのでパスしておくとして、お隣の方から。

この方は、たぶん七十歳を超えていると思われるご婦人で髪もかなり白い。
職業上、髪を見ていろいろ推測してしまうのだが、肩より少し長いくらいでパーマや染めた痕跡はなかった。
もしかすると、入院するかなり前から健康を害していた可能性がある。
七十歳台の健康な女性は、その辺の小娘よりよっぽど美容室には通っているものだ。

それはいいとしても普通、病室って男女別室が原則だと思っていたが、小児病棟ならありとしても、ご老人の場合もあるのだろうか。
あるいは、当時29歳のオラホに格段の信頼を置いたということなのか。
いや、キャン玉腫れてる分際でやれるものならやってみろ、という病院の挑戦状なのか。
病院の意図は分からないが、たぶん考えすぎだろう。(あたりまえだ)
ベット数制限による単なるケース・バイ・ケースってやつか。

で、その老婦人、オラホと同じくこの日に入院だった。
彼女のベットの下には、大きなガラス瓶が2つ置いてあり、片方はきれいな黄色の液体、もう片方はきれいな赤い液体が入っていた。
膀胱癌で入院した父を見舞っていたオラホは、同じものを見たことがあったので、すぐに膀胱に病巣を抱えていると直感した。

「膀胱の中を洗浄するため点滴をしますが、少し吐き気がするかもしれません。」

と、看護婦さんが言うのが聞こえたが、ナイアガラの滝のように嘔吐していた。
オラホは多少むかむかした程度で済んだが、バス遠足の車内だったら10人はもらいゲロしていることだったろう。

さて、もう一人の同居人は、四十前後と思われる男性で、常に父親と母親がが交代で看病していたのが印象的だった。
病気については分からないが、聞くところによると、釜石からここへ転院してきて、さらに仙台の病院に転院するためのベット待ちなのだという。
残念なことにこの男性、脳に障害があるらしくらしく「デンキ、デンキ」とか単語二種類以上をつなげて喋っているのを聞いたことがない。

こんな境遇を聞くだけで、この男性の両親が今までどれほどのエネルギーと魂を注ぎ込んで彼を育ててきたのか、三番目の子供を授かって間もないオラホには、とても想像のおよぶ領域ではない。
鼻水出ちったよ。

病院というものが、世の中の健康で幸福に満ちた世界から隔絶され、悲しみと絶望の淵から這い出そうとしている人々の病との戦場であることを思い知らされた気がした。
そう思うと、たかだかおたふく風邪で入院しているオラホは、何様なんだ、という気にもなってくる。
しかし、こんな神妙な面持ちだったのも、平熱でのことで、発熱が始まると誰よりも不幸な人間になれるオラホは、ある意味たくましい。

とにもかくにも、この面々と七日間この病室で過ごすことになったわけだ。



■入院初日3

ベットに付いてしばらくすると、先ほどとは違う看護婦さんが点滴を準備して入ってきた。
結構若くてきれいかも…。
先ほどの看護婦さんもそうだったが、二十代できれいな方だっと記憶している。
持ってきた点滴は、ウィルスを殺す抗生剤である。
100娑未世辰燭蹐Δ。
これがオラホの点滴デビューなのかと思うとなにかウキウキしてきた。

実はオラホ、注射の類は嫌いではない。
決して痛みに対して特別な耐性や嗜好性があるなんてことはない。
これには理由がある。
御幼少のころオラホが風邪の注射を打たれてた横で、おじさんがぶっとい注射を打たれているのを見たことがあった。
それは、直径2僉長さ20僂らいで、え?馬用?と思うほどでかかった。
今思うとブドウ糖の注射だったと思うが、そのおじさんは平然とした面持ちでむしろ心地よさそうにすら見えた。


「これが男というものだ。」


と、御幼少のオラホに身を持って男の手本を示しているように見えた。
そして名も知らないそのおじさんは、強い男にあこがれる少年の心に永遠に刻まれることになった。
ということで、それ以来オラホは注射に対する恐怖感がなくなってしまったというわけさ。
まさか患者がウキウキとしているともしらない看護婦さんは、スタンドに点滴をぶらさげ準備が整うと


「は〜い、佐々木さん。腕を出してくださいね。」


と、優しく言うと腕の付け根にゴムバンドで止血しオラホをリードする。
前かがみになった時シャンプーの香りがしたが、当店で販売しているものではないことだけは分かった。
こういうことに気が向いてしまうのも職業柄なのか、単なるオラホの性癖なのか…。
そして彼女は、ついに浮き出る血管めがけて蚊のような羽のついた針を滑り込ませた。
ここが結婚式場なら、


「ケーキ入刀!」


という司会の言葉とともにフラッシュの雨を浴びるところだ。
そのあと、羽の部分をテープで留め固定すると、彼女は点滴チューブの中間にある歯車状の装置を回して点滴のスピードを調節した。
これでスピードを変えられるようだ。
覚えとこ。

「もしトイレに行く時は、このままスタンドを引いて用を足してくださいね。」

そう言い残すと彼女は病室を出て行った。
こうして点滴が始まったのだが、すぐに時間を持て余してしまった。
入院できるかどうかも不確定だったので、手荷物というものを何も持ってこなかったため、着替えの類は勿論だが、暇つぶしの雑誌ひとつ持ってないからだ。
う〜、退屈だ。
旗本退屈男より五割増しで退屈だ。
しかも、身動きも取れない。

30分でようやく終わった時には開放感で満たされたが、これから幾度となくこれをやるのかと思うと気が重くなった。
気晴らしに院内を探索したい思いにかられたが、当然それはできない。
外出禁止令がある。
う〜ん、チリ地震の被災者の気持ちがわかる気がする、と今なら思うだろう。
そんなとき、ごくごく自然な肉体的欲求が襲った。


「おしっこがしたい。」


水分を直接血管に入れたわけだし、当然と言えば当然の現象だ。
よし、今度は尿瓶デビューだぜ、イエ〜!とは言わなかったが、やる気満々である。
ベットの上で合法的に小用する2つの方法うちの一つなのだから、盛り上がらないわけがない。(そ、そうか?)
ちなみにもう一つの方法は、オムツ。
ま、これは赤ん坊の時に経験済みだが、記憶にないのはカウントに入れるわけにはいかない。
じい様になってダダ漏れになるまでまで待つか、その種の趣味に走るか。
その選択について、ここで話を膨らませるつもりはないので、前者を選択するとだけしておく。

さて、装着だ。
お、以外に口がでかいぞ。
欧米用か?
右手で持って左手で補助?
試行錯誤の上、とりあえずスタンスとフォームは固まった。
カタパルト準備よし!


「アムロいきま〜っす!」


アタタタタタタ〜



オラホの股間からケンシロウの奇声が聞こえた気がした。
いや、たしかにあの時ケンシロウがオラホの股間にいたのだ。
それは、テレビもラジオもない病人しかいない静寂の部屋が、一瞬アルプスにいるのかと思うほどこだました。
ポリ容器だ!
このポリ容器の中で、おしっこの当たる音が共鳴し増幅している!


やばい!やばいぞ!

「オラホは今、オシッコしてます。」

と電飾付きで表通りに看板出してるようなものじゃないか!

しかも止まらないし。


悪夢だった。
脳裏をよぎったのは、中学の時、大便しようと職員便所に行き、扉を開けたらそこに鎮座していたクラス担任と目が合った瞬間だった。
後になれば他愛もないことが、まるで人生を狂わす大惨事であるかのように思えるものである。
だが、これが他愛もないことになるまでには、まだ数年の猶予が必要だった。
もっとも、クラス担任の件は、今でも悪夢だが。

こんな風に入院初日は過ぎ、いつの間にか股間の痛み以外の病状のことを忘れ始めていた。
しかしその夜、再び熱が上がり始め、これが単なる序章に過ぎないことを思い知ることになるのだった。













余った裾でバックが作れるノーブル佐々木です。

んん〜、やる気になれば連続アップもできるもんだ。
ということで、おたふく風邪后




■入院初日1

「人生、一寸先は闇」とよく言うが、50歳になった現在に至っても、男に三度も指先でころがされたのはこの数日間だけのこと。
その間オラホが発した言葉といえば、「はい」「痛い」だけ。
挙句の果てに、なにか期待していたわけでもないのに、妄想回路を暴走させられてロマンチックが止まらない。

おたふくウィルスは、オラホの精神まで蝕んでいるようだった。
そんなオラホが不幸指数盛岡最低値を更新したことを周りが知る由もなく、入院に向けた手続きは淡々と進んでいく。

まず、体重や身長などを測定し心電図もとった。
そんな事をしているうちに、おのずと興味は次に何を測定するのか、という方向に向きかけていたが、それも唐突に終わり病室に案内されることになった。

そこは、ナースステーションと扉一つで出入りができる四人部屋で、病院内全体が空調していなかったのに、ここはエアコンが効いていて快適だった。
これは紹介状のせいなのか?とこの時は思ったが、実際は感染力を持つ病気のため、できるだけ収容人数の少ない部屋をあてがわれていただけのようだった。
オラホのベットは、出入り口から遠い部屋の一番奥。

「これは軽〜い隔離だな。」

熱の割に意外と冷静に観察していたオラホだった。
ベットにつくと看護婦さんが、ポケットから体温計を出して熱を計るようにオラホに手渡した。
それを受け取りおもむろに脇に差し込む。
冷やりとする感触がどこか懐かしい。

きれいな部屋なんですね〜、とかなんとか言いながら間を持たせていると「ピピッ」と測定完了の音がしたので、取り出して体温表示をみた。


「36.8℃!」


ほぼ平熱ではないか、多少大目に見ても微熱ってとこだろう。
冷静と発熱の間には確かな相関関係がある、とオラホは悟った。


「あ、こ、これは、あれ〜?家で測った時は確かに39℃あったんですけど〜」


これでは、まるで仮病を使って授業を抜け出した不良少年ではないか。
いや、少年ならまだ許される。
人生経験も浅い、尻に蒙古班がある少年なら可愛げもある。
しかしオラホは三児の父親で、ここは保険室ではなく大学病院なのだ。
「さささ〜」と血の気が引く音が聞こえた気がした。
しかし、看護婦は動じなかった。
表情一つ変えることなく、口元には軽く笑みを浮かべて言った。


「はい、大丈夫ですよ〜。」


は?大丈夫なの?
今度は急に懺悔を許された気分になってきたぞ。
白衣の天使とは、彼女のことだったのか…。
十字架しょってゴルゴダの丘へ向かうイエス・キリストがベロニカから水をもらった時の気持が少し分かった瞬間だったかも知れない。

これは後から分かったことだが、この病気の熱は上がったり下がったりすることもあるらしい。
ふっ、まだロマンチックがおさまらないようだ。
んで、その天使は上気しているオラホに、いくつか注意点を示した。

1.むやみに病室を出ないこと。

2.トイレは、大便での使用はOKだが、小便は尿瓶(しびん)ですること。

3.熱が出た時は、解熱用の座薬を投薬するが38.6℃を超えてから行うこととする。

4.3に関しては、ナース・コールで対応するので、逐次自分で体温を測ること。

5.下腹部(キャン玉袋)は、氷嚢(ひょうのう)で冷やし、中の氷が溶けたら交換するので、それもナース・コールすること。


ふむふむ、なかなか刺激的なメニューだ。
みなすべて初体験だもんな〜、とか、どこか風俗店にでも入った気分で聞いていたオラホに尿瓶と氷嚢を渡して彼女は病室を出て行った。

ベットの上で、彼女の後姿を見送ったオラホは、手にしたアイテムを点検し始めた。
まず、尿瓶。
ほう、これが尿瓶か、父親が入院している時に見たことがあった。
あの時はガラス製だったが、それはポリエチレンでできているようだった。

一方の氷嚢というと、普通はおでこにあてがう為に上から吊るすひもが付いているものだが、これは伸縮性のネットにくるまれたゴムボール状になっている。
ん?これでお股を冷やす?
あ〜、パンツに入れとけ、ってことね。
どれどれ。
お、来る来る〜、冷える気がしてくるぞ〜。
平熱となるとがぜん食いつきも違ってくるものだ。
これで悠々自適の入院生活が始まるぜ。



…と、この時は思っていた。






「んだら・んだのや・んだなっす」岩手語教師ノーブル佐々木です。

おたふく風邪の続編である。




■泌尿器科

泌尿器科には、正直良い思い出はない。
もっとも


「あそこの肛門科には良い思い出があるんだ・・・。」


などとしみじみ語るやつにあったこともないが。
オラホの父親は、41歳と言う若さで癌で亡くなったのだが、その彼が患ったのが膀胱癌だったからだ。
実際、膀胱癌単独で死にいたるケースはあまりない。
大概は、より命にかかわる肺などに転移してご臨終となるらしい。
そんな因縁めいたものを感じつつ総合受付で初診手続きを済ませ、泌尿器科へと向かうオラホだった。

そこは、すでに混雑時間を過ぎたせいなのか、がらんとして人気がなかった。
内科とはえらい違いじゃないか・・・、とか駄洒落を大脳掲示板に表示させつつ泌尿器科受付で書類を提出した。
内科で紹介状を持たされていて、それを出すように言われていたのだ。
同じ院内でなぜ紹介状が必要なのか、どこか釈然としない思いだった。

すると、案内された診察室で待っていたのは、ロン毛・ソバージュの20代と思しき綺麗な女医さんだった。
今だと


「えええ〜、ソバージュ〜?」


とか失笑をされかねないが、当時はジュリアナ東京全盛時代、白衣の下はボディコンか?と胸躍らせるべきところなのだ。
え?それが何で泌尿器科に・・・。
ああ〜、悪夢が蘇る、実はオラホは14歳の時に・・・。
あ、これはもうやったか。
しかし、肛門とか裏口の話ではない。
表玄関の話だ。
拳銃で言えば、握りの部分。
あ〜、何に例えても卑猥だ。
卑猥すぎる。
今まで観た映画のいけないシーンが走馬灯のように脳内を回り始めた。
あれ?少し幸せかも・・・。



■昼の診察室

促がされるまま、丸いすに座ると彼女は問診を始めた。
内容は良く憶えていないが、発症時期とか症状について聞かれたと思う。
しかし、この時オラホは対応策を練っていた。

「ここは、あれだ、三角関数で乗り切ろう。」

なんと初心(うぶ)なことだろう、オラホは己の情念を肉体に体現化することをあくまで拒否していた。
んんん〜使い慣れない言葉を使うと分りづらい。
早い話が、勃起しないように他に集中することを考えていたわけだ。
すると一呼吸おいて彼女が言った。

「それでは、触診しますので下のものを脱いでそこに寝てください。」



来た

来た



着た

来た〜

来てしまったぁ〜。



アノクタラサンミャクサンボダイ(レインボーマン)
テクマクマヤコン、テクマクマヤコン(ヒミツのあっこちゃん)
臨兵闘者皆陳列在前(りんびょうとうしゃかいちんれつざいぜん/孔雀王)

いざとなると三角関数はさっぱり浮かんでこないので、取りあえず呪文を唱えていたりするオラホが全力でひたむきである。
すこし話が大きくなってきたような気がしないでもないが、このあとこのセンテンスは急激に終局へと向かうこととなる。



■小さきものたちへ

「では、○○先生お願します。」

は?それって誰?
茫然自失のオラホの前に呼ばれて登場したのは、身長180cm以上はあるガッチリした体格の男性医師だった。
どうやらこの女医さんは、まだ研修中らしい。


「はめられた!」


オラホは、そう思った。
まるで新婚初夜に妻と思った相手が男だと分った、そんな感じだ。
いや、もっと適切な表現がある。
「美人局」と書いて「つつもたせ」だ。
若年層には通じないかもしれないが、上のひらがなで変換すればちゃんと出てくる広辞苑にもある正規の言葉だ。
ま、意味は自分で調べなはれ。


「実は私、大学時代アメフトしてました。」


とは言わなかったが、合コンならきっとそう言っていたにちがいない彼は、例によってゴム手袋を装着し、このシリーズ3回目となる触診を行なった。


「痛いですか?」


「そんなぶっとい指で転がすんじゃねぇ。
どれが指でどれが竿だかわかんねぇじゃねぇか!」


と生涯2度目の江戸弁を使いたいところだったが、口から出たのはたった一言だけだった。

「は、はい・・・。」

しかも、また裏返ってるし。
オラホの竿が指より小さく見えた29歳の夏。
この時、不幸指数は盛岡最低値を記録した。


まだ続く



スーパーのカートでカーリングをしたことのあるノーブル佐々木です。

おひさである。
今回は、知人から言われた一言で「おたふく風邪」シリーズを復活させることにした。

まるで日本国民の80%は知っているような上から目線な言い方でイラっとくるかもしれないが、オラホの知り合いの一部では、結構評価が高い。

で、その知人に「あの続きは〜?」とか言われたのが半年くらい前。

今になってどうしてこの約束を履行する気になったのか自分でもよくわからないが、善人にでもなった気分を味わいたいのかもしれない。

とは言え、靴ら読む御仁には、さすがにストーリーの把握は出来ないだろうから前回までのリンクを貼っておこう。

おたふく風邪

おたふく風邪



■発熱

ただ事ではないと思った。

発汗と発熱で目覚めたその日は、医者に入院を勧められてから2日目、キャン玉に痛みを感じてから3日目、耳下腺に腫れとお痛みを感じてから4日目のことだ。

時は、7月22日、末っ子が生まれてまだ3ヶ月経っていない時期で、店は夏のかきいれどき。
この時、脳裏をかすめたのが、店に残るスタッフのこと。
あ〜、なんという経営者魂。

これが「情熱大陸」なら、「ノーブル佐々木は、経営者の鏡である」とナレーションが入るところだ。
当時はまだ放送されていないのが惜しまれる。

とにかくスタッフが1名欠けるだけでもかなりな痛手なのに、看病まで背負わせることになる。
どうするオラホ、ここは決断の時ではないのか。

そうして、首から上だけサウナに入っているようなうだる頭で出した結論は、あのフレンドリーな医師の助言に従って入院することだった。





■待合で間違い

前回来た医大の内科の待合。
診療は9時からだがオラホが着いた8時半には、すでに20人以上がそこで待っていた。

「ち、皆病人みたいな顔しやがって」

とか筋違いな思いとは裏腹に、多分オラホが一番病人ぽかったと思う。
実は、オラホは真夏の窓際に置かれたソフビ人形並みに熱に弱い。
といっても、熱で体が全方向に自在に捻じ曲がるわけではない。
メンタルの問題だ。

日本一とは言わないが、盛岡一不幸な気分になるのだ。
しかし、そんな気分を知る由もない受付は、10時を過ぎようとしてもなかなかオラホの名を呼ぼうとしない。

その間、オラホの苗字の「佐々木」は、盛岡で最も多い苗字の一つと言うことも災いし、何度か看護婦に「佐々木さ〜ん」と呼ばれた。
すると、その度に反応して立ち上がろうとしてしまう。
その格好は、まるでスキーの直滑降だ。

これは今に始まったことではなく、名前を呼ばれる状況においては、ほぼ毎回遭遇する場面なのだ。
メジャーの宿命と言うには、あまりに過酷である。

大概はその後フルネームで呼ばれ、自分でないことが分ると再び椅子に腰を落とすことになるのだが、同姓の「佐々木さん」と思しき人物と直滑降のスタイルで見つめ合うことになる。
時が時なら「半立ち王子」と命名されていたことだろう。

「あかん、もう死ぬかもしれない。」

普段なら怒りもこみ上げてくるころだが、そんな覇気はない。
フラフラと受付に行き

「39度の熱で8時半からいるんですけどまだでしょうか?」

と聞くのが精一杯だった。
いや、多分に嫌味というスパイスが降りかけられていたかもしれない。

「はい・・・、もうしばらくお待ちください」

といった受付は少し慌てたようだった。
ん?忘れられてた?
結局、何分もしないですぐに呼ばれたところを見るとそのようだ。
しかし、もうそんなことはどうでも良くなっていた。
オラホは、盛岡一不幸な男なんだから。




■再び診察

医大ともなると、曜日で担当が替わるのは当たり前、ということで今回はあのフレンドリードクターではない。
ま、カルテがあるだろうから大丈夫なはずだ。
しかし、入院を希望するとなると、先日のやり取りは伝える必要があると思い、一通り説明し最後に入院を希望すること付け加えた。
すると、医師は

「分りました。」

と即答。

「早っ!」

と突っ込む気力はなかったが、これで一歩踏み出せる、という安堵感で少しだけ幸せになった。
そして、医師は言葉を続けた。

「では、入院となりますが、入院は泌尿器科となりますので、1階の総合受付に行ってそちらの手続きをしてきて下さい」

「なに〜、1時間半待って5分で終わり、これからまた別の科へ行って、また待たせよって〜のかい。」


オラホはこの時、生まれて初めて江戸弁を使ったと思うが、口には出ていない。
まるで、「アガリ」直前に「振り出しに戻る」を引いてしまったスゴロク・アスリートのような気分になり、オラホの不幸指数はまた盛岡最下位になった。