2017/10

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モホロビチッチの不連続面でひと騒ぎしたことのあるノーブル佐々木です


連続だと、そうそう長くは打ち込めないものだ。
ということで此



■入院初日2

ここで、同室の面々を紹介しておこう。
と、言っても名前も覚えていないし、病名に至っては泌尿器系の病気という以外、元から知らない。
それに、泌尿器愛好会に入会したのならいざ知らず、1週間の入院で親交を深められるほど趣味嗜好に共通点も見えないし、ましてや健康でもない。
見てわかる以上のことは分からない。

お、泌尿器愛好会って、なんか面白い…。
おっと、話がそれるところだった。
ただでさえ話が前に進みにくいのにいかんいかん。

ということで、即紹介、と行く前に訂正がある。
病室には、ベットが4つあったと記述したが、よく考えてみると3つだったようだ。
同室した人数はたしかに三人いたのだが、オラホが入室直後、他の病室とメンバー交代がなされていて、ベット数と錯覚したみたいだ。
交代した理由は、オラホの疾病が原因だと思われる。
特に、謝るようなことではないが、お詫びし訂正しておこう。


「反省してま〜す。」


さて、身も心も清めたところで今度こそ本題に戻そう。
まず、交代してしまった人は一時間もいなかったのでパスしておくとして、お隣の方から。

この方は、たぶん七十歳を超えていると思われるご婦人で髪もかなり白い。
職業上、髪を見ていろいろ推測してしまうのだが、肩より少し長いくらいでパーマや染めた痕跡はなかった。
もしかすると、入院するかなり前から健康を害していた可能性がある。
七十歳台の健康な女性は、その辺の小娘よりよっぽど美容室には通っているものだ。

それはいいとしても普通、病室って男女別室が原則だと思っていたが、小児病棟ならありとしても、ご老人の場合もあるのだろうか。
あるいは、当時29歳のオラホに格段の信頼を置いたということなのか。
いや、キャン玉腫れてる分際でやれるものならやってみろ、という病院の挑戦状なのか。
病院の意図は分からないが、たぶん考えすぎだろう。(あたりまえだ)
ベット数制限による単なるケース・バイ・ケースってやつか。

で、その老婦人、オラホと同じくこの日に入院だった。
彼女のベットの下には、大きなガラス瓶が2つ置いてあり、片方はきれいな黄色の液体、もう片方はきれいな赤い液体が入っていた。
膀胱癌で入院した父を見舞っていたオラホは、同じものを見たことがあったので、すぐに膀胱に病巣を抱えていると直感した。

「膀胱の中を洗浄するため点滴をしますが、少し吐き気がするかもしれません。」

と、看護婦さんが言うのが聞こえたが、ナイアガラの滝のように嘔吐していた。
オラホは多少むかむかした程度で済んだが、バス遠足の車内だったら10人はもらいゲロしていることだったろう。

さて、もう一人の同居人は、四十前後と思われる男性で、常に父親と母親がが交代で看病していたのが印象的だった。
病気については分からないが、聞くところによると、釜石からここへ転院してきて、さらに仙台の病院に転院するためのベット待ちなのだという。
残念なことにこの男性、脳に障害があるらしくらしく「デンキ、デンキ」とか単語二種類以上をつなげて喋っているのを聞いたことがない。

こんな境遇を聞くだけで、この男性の両親が今までどれほどのエネルギーと魂を注ぎ込んで彼を育ててきたのか、三番目の子供を授かって間もないオラホには、とても想像のおよぶ領域ではない。
鼻水出ちったよ。

病院というものが、世の中の健康で幸福に満ちた世界から隔絶され、悲しみと絶望の淵から這い出そうとしている人々の病との戦場であることを思い知らされた気がした。
そう思うと、たかだかおたふく風邪で入院しているオラホは、何様なんだ、という気にもなってくる。
しかし、こんな神妙な面持ちだったのも、平熱でのことで、発熱が始まると誰よりも不幸な人間になれるオラホは、ある意味たくましい。

とにもかくにも、この面々と七日間この病室で過ごすことになったわけだ。



■入院初日3

ベットに付いてしばらくすると、先ほどとは違う看護婦さんが点滴を準備して入ってきた。
結構若くてきれいかも…。
先ほどの看護婦さんもそうだったが、二十代できれいな方だっと記憶している。
持ってきた点滴は、ウィルスを殺す抗生剤である。
100娑未世辰燭蹐Δ。
これがオラホの点滴デビューなのかと思うとなにかウキウキしてきた。

実はオラホ、注射の類は嫌いではない。
決して痛みに対して特別な耐性や嗜好性があるなんてことはない。
これには理由がある。
御幼少のころオラホが風邪の注射を打たれてた横で、おじさんがぶっとい注射を打たれているのを見たことがあった。
それは、直径2僉長さ20僂らいで、え?馬用?と思うほどでかかった。
今思うとブドウ糖の注射だったと思うが、そのおじさんは平然とした面持ちでむしろ心地よさそうにすら見えた。


「これが男というものだ。」


と、御幼少のオラホに身を持って男の手本を示しているように見えた。
そして名も知らないそのおじさんは、強い男にあこがれる少年の心に永遠に刻まれることになった。
ということで、それ以来オラホは注射に対する恐怖感がなくなってしまったというわけさ。
まさか患者がウキウキとしているともしらない看護婦さんは、スタンドに点滴をぶらさげ準備が整うと


「は〜い、佐々木さん。腕を出してくださいね。」


と、優しく言うと腕の付け根にゴムバンドで止血しオラホをリードする。
前かがみになった時シャンプーの香りがしたが、当店で販売しているものではないことだけは分かった。
こういうことに気が向いてしまうのも職業柄なのか、単なるオラホの性癖なのか…。
そして彼女は、ついに浮き出る血管めがけて蚊のような羽のついた針を滑り込ませた。
ここが結婚式場なら、


「ケーキ入刀!」


という司会の言葉とともにフラッシュの雨を浴びるところだ。
そのあと、羽の部分をテープで留め固定すると、彼女は点滴チューブの中間にある歯車状の装置を回して点滴のスピードを調節した。
これでスピードを変えられるようだ。
覚えとこ。

「もしトイレに行く時は、このままスタンドを引いて用を足してくださいね。」

そう言い残すと彼女は病室を出て行った。
こうして点滴が始まったのだが、すぐに時間を持て余してしまった。
入院できるかどうかも不確定だったので、手荷物というものを何も持ってこなかったため、着替えの類は勿論だが、暇つぶしの雑誌ひとつ持ってないからだ。
う〜、退屈だ。
旗本退屈男より五割増しで退屈だ。
しかも、身動きも取れない。

30分でようやく終わった時には開放感で満たされたが、これから幾度となくこれをやるのかと思うと気が重くなった。
気晴らしに院内を探索したい思いにかられたが、当然それはできない。
外出禁止令がある。
う〜ん、チリ地震の被災者の気持ちがわかる気がする、と今なら思うだろう。
そんなとき、ごくごく自然な肉体的欲求が襲った。


「おしっこがしたい。」


水分を直接血管に入れたわけだし、当然と言えば当然の現象だ。
よし、今度は尿瓶デビューだぜ、イエ〜!とは言わなかったが、やる気満々である。
ベットの上で合法的に小用する2つの方法うちの一つなのだから、盛り上がらないわけがない。(そ、そうか?)
ちなみにもう一つの方法は、オムツ。
ま、これは赤ん坊の時に経験済みだが、記憶にないのはカウントに入れるわけにはいかない。
じい様になってダダ漏れになるまでまで待つか、その種の趣味に走るか。
その選択について、ここで話を膨らませるつもりはないので、前者を選択するとだけしておく。

さて、装着だ。
お、以外に口がでかいぞ。
欧米用か?
右手で持って左手で補助?
試行錯誤の上、とりあえずスタンスとフォームは固まった。
カタパルト準備よし!


「アムロいきま〜っす!」


アタタタタタタ〜



オラホの股間からケンシロウの奇声が聞こえた気がした。
いや、たしかにあの時ケンシロウがオラホの股間にいたのだ。
それは、テレビもラジオもない病人しかいない静寂の部屋が、一瞬アルプスにいるのかと思うほどこだました。
ポリ容器だ!
このポリ容器の中で、おしっこの当たる音が共鳴し増幅している!


やばい!やばいぞ!

「オラホは今、オシッコしてます。」

と電飾付きで表通りに看板出してるようなものじゃないか!

しかも止まらないし。


悪夢だった。
脳裏をよぎったのは、中学の時、大便しようと職員便所に行き、扉を開けたらそこに鎮座していたクラス担任と目が合った瞬間だった。
後になれば他愛もないことが、まるで人生を狂わす大惨事であるかのように思えるものである。
だが、これが他愛もないことになるまでには、まだ数年の猶予が必要だった。
もっとも、クラス担任の件は、今でも悪夢だが。

こんな風に入院初日は過ぎ、いつの間にか股間の痛み以外の病状のことを忘れ始めていた。
しかしその夜、再び熱が上がり始め、これが単なる序章に過ぎないことを思い知ることになるのだった。











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