2017/08

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長すぎるつぶやき、ノーブル佐々木です。

では、おたふく風邪擦箸いΔ海箸如



■再び発熱

尿瓶騒動が終わると、オラホは失意のうちに眠りに付いた。
何もやることはないのだから眠るしかない。
5時過ぎぐらいだろうか。
廊下から慌ただしく夕食を準備する音が聞こえてきて目が覚めた。

しかし、夏ともなるとまだ外は相当明るい。
どうも昼を食べた記憶があいまいなのだが、朝昼と連チャンで食べてないわけはないので、なにか食べたはずだと思う。
そのせいか、目の前にならんだ食事に気持ちが踊らない。

それに、今はどうかわからないが、病院の食事がなんとも無味乾燥なもので、メタボ治療のため入院したのではないかと錯覚するほど脂っけが抜かれていた。
そんなわけで、鳥のささ身を残してしまった。

食事の後、ぼんやりまどろんでいたが、7時を過ぎると、店を終えた嫁が見舞いに来て下着の着替えなどを届けに来てくれた。
店のこととか家のこととか話をしたが、家には5歳以下が3人待ってるので、そんなに長居はできないので30分ほどで帰った。
帰り際に、暇つぶしに本の類を持って来てほしい、と頼む。

あ〜、なんかホームドラマのようだ。
背中さすってもらって


「いつもすまないねぇ。」


なんて、言ってみてぇ〜。
ついでに


「何言ってんだよ。おまいさん。」


とか言ってもらったりして。
今度来たら頼んでみようかなン♪
違う意味でビョーキなオラホだった。

ところが9時になって消灯となったあたりから、オラホの身体に異変が起きた。
熱っぽくて悪寒がするのは、仕方ないとしても、えらい勢いで身体がガタガタ震える。
まるで全力で貧乏ゆすりしてるようだ。
こ、これがおたふくかぜの実力か…。
アムロが初めてシャーと空中戦を戦った気分だ。

お〜、そうだ体温測ろう、体温。
8度6分を超えてれば解熱剤をもらえるぞ。
しかし、ゴソゴソしながら測った体温は期待に反して8度2分。
ようし、いいだろう、これでもオラホは、あの「みちのくプロレス」のグレート・サスケを後輩に持つ美容師だ。
勝負しようじゃないか、このおたふくめ!
自分に「おたふく」と言っているのが少し切ない。

こうしてオラホとおたふくのいつ果てるともしれない熾烈な戦いが始まった。
ガタガタ震えては体温計をゴソゴソ。
そしてまたガタガタ震えてはゴソゴソ。
5分おきにガタガタとゴソゴソを繰り返し続け、30分位もしてようやく目標(?)の8度6分になるに及び、オラホは枕元のナースコールを目にもとまらぬ速さで押した。


「はい!青の方」


と、児玉清が言った。


「どうしました〜。」


いや、看護婦さんだったか。



「熱が8度6分を超えました。」


「は〜い、今行きますね〜。」



若干緊張感のない応対にイラッとしかもしれない。
しかし、さすがに医大のナースの対応は早い。
弾丸状の座薬を持って看護婦さん参上。
天使の輪が見えた気がした。

薄暗い病室で座薬を指先で上向きに持ち、ベット脇に立った彼女は、どこか「Fuck You!」してるようにも見えたが、天使の方で良しとしよう。



「どうします?自分で入れますか?」



彼女の物言いに迷いはない。
どうしてこうも皆、煽情的に追い込んでくるのか。
「惚れてまうやろぉ〜」と今なら言えるかも知れないが、この時まだこのギャグは誕生していない。


「自分で入れます!」


迷いを断ち切り、きっぱりと申し出を断るオラホ。
そんな葛藤を知る由もない彼女が、それを手渡し病室を出て行くのを見届けると、オラホは自らの肛門にあてがい、一気に挿入した。
異物感を感じたのもつかのま、座薬がオラホの体内で溶けていくような、そんな感覚に安堵のため息がもれる。

いちいち説明する自分が少しキモイ。
しかしこの座薬、効きがいい。
気のせいかもしれないが、入れた途端に体温がどんどん下がっていくような気がする。
エイトマンのタバコってこんな感じかも。



■氷嚢とお友達になる

30分と待つことなく、体の震えはおさまっていた。
解熱剤一本で数百年の医学の進歩を甲斐間見たようだった。
しかしその一方で、オラホのキャン玉袋にあてがわれている氷嚢は、治療としてはかなり原始的なのではないだろうか。
しかもルックスがかなりイケてない。

せめてそそり立っているのなら、どこへ行ったとしても、恥ずかしくもどこか誇らしげに振る舞えるのだが。
いかにイメージしても居酒屋か骨董品屋の玄関先以外で、このルックスを活かせる場が思い浮かばない。
せめて、パンツタイプとかオムツタイプでもいいから、誰か開発してくれてもよさそうなものだ。

それに結露するのも困ったものだ。
だいたい体表面で湿度が高い場所としては1,2を争う場である。
目覚めたとき20年ぶりで漏らしたかと思ってしまった。

ノッテきたついでに言うと、交換する時も冷や汗ものだ。
氷が解けて交換するとき、


「はい!おかわり!」


てな感じで差し出した氷嚢に陰毛が付いていた時は、全身の立毛筋が収縮したぞ。(鳥肌が立った、ってこと)
しかも中身が生ぬるくなった氷嚢からは、心なしか湯気が出てたような気もしたし…。
いや、愚痴るのはよそう。
これしきの事で文句を言う資格はオラホにはない。

トイレに出たときのことだ。
病室の前を通り過ぎて行くうちに、入り口の名前の横に赤いシールが貼ってあることに気がついた。
よく見ると稀に黄色いシールもある。
そして自分の名前の横にだけ、なにも貼っていなかった時オラホは確信した。
この病棟にいる患者のほとんどは、自分を除き重病患者ばかりであることを。

こんなことで弱音を吐いていちゃ天国の親父にお尻ペンペンされてしまう。
そうだ、氷嚢とお友達になろうじゃないか。
思えば文句も言わずオラホのキャン玉袋をキャッチャーミットのように優しく抱き、冷やし、しかも股間から支えてくれる良い奴だぜ。
おおお〜、まるで伴宙太のように見えてきたぞ。

意外なところで人は生涯の友に出会うものである。





■キカイダーに変身

熱が冷め、股間以外はまるで健康そのものになった気分で、夜の帳を堪能する。
そんな気でいたのだが…。
眠れない、ああ眠れない、眠れない。

そうだ、羊だ、羊を数えよう。
こんなところで、長らく心の裏庭にある鉄柵に閉じ込めていた羊を野に放つことになることとは思わなかったが、まあいいこれも話のタネになる。
さて、大人のオラホが何匹数えられるか、ギネスに挑戦だ。


「羊が1匹〜、羊が2匹〜、羊が…おいおいお前はカピバラだろう〜。」


軽いノリ突っ込みで滑り出しは上々だったが、普段から宵っ張りのオラホ、昼間から随分と寝ていたせいもありさっぱり効き目がない。
しかも、昼間から引き続き隣の老婦人が


「オロロロロロ〜」


と、ひっきりなしに嘔吐している声が聞こえてくる。
更に、昼間は熟睡してピクリともしていなかったお向かいの男性が、天井の蛍光灯を見て


「ア、デンキ。ア、デンキ。」


と、英単語の発音練習をしているように追い打ちをかける。
「オロロ〜」「ア、デンキ」の大合唱だ。


「こ、これはギルの笛の音だ〜。」


オラホは、キカイダーのようにベットの上で身もだえていた。
TVでは、爆音か何かで笛の音がかき消され、キカイダーは我に帰るのだが、そんな爆発をこの病室に期待することは到底できない。
あ〜誰か止めてくれ!30分、いや10分でもいい。
止めてくれたらオラホは熟睡して見せる。
一気にノンレム睡眠まで急降下だ。
しかも一度熟睡したら、目覚まし3個でも目覚めない確たる自信も実績もある。
しかし、笛の音は止まなかった。


「オロロ〜」

「ア、デンキ。」

「オロロ〜」

「ア、デンキ。」

「オロロ〜」

「ア、デンキ。」




そして、何かがオラホの頭の中で


「シュウウウ〜」



と焼け焦げる音がした。



「赤シールでもなんでもいい!

てめ〜らなんか

で〜きれいだ!」




こうして、生涯三度目の聞こえない江戸弁は陽の目を見ることはないままオラホの良心回路は焼き切れた。














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